京都大学フィールド科学教育研究センターの邉見由美助教と、高知大学大学院総合人間自然科学研究科の伊谷行教授は、北海道の厚岸湾および有珠湾において、テッポウエビ科の稀種 Betaeus levifrons を5個体採集し、日本初記録として報告した。本種はこれまでロシア・ピョートル大帝湾でのみ確認されており、日本海固有種と考えられていたが、今回の発見により太平洋岸にも分布することが明らかとなった。
本種は、砂泥底に巣穴を掘って生活する甲殻類アナジャコ (Upogebia major) の巣穴内から発見された。形態的特徴に加え、ミトコンドリアDNA(16S rRNAおよびCOI領域)の配列解析により、ロシア産個体との遺伝的差異がほとんどないことが確認された。また、アナジャコの巣穴に共生する生物相についても整理され、ハゼ類やウロコムシ類、二枚貝類などの共生者が記録された。
比較対象として、別種のテッポウエビ (Alpheus brevicristatus) の巣穴も調査されたが、そこから Betaeus levifrons は確認されず、「宿主特異性」が示唆された。日本に分布する同属の2種は自由生活型であるのに対し、本種は巣穴内に隠れて生活する「共生型」であることから、Betaeus levifronsには「カクレテッポウエビモドキ」の和名が提唱された。
本研究成果は英国の学術誌「Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom」に掲載された。邉見助教らは、「今後の進化・生態研究において、共生者相の地域差が宿主との相互作用に与える影響を解明する上で重要な知見になる」と述べている。