京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科と農学研究科の研究グループは、マダガスカル北西部の熱帯乾燥林で、ネズミが種子を埋める「ばら撒き貯食」を行っている様子を初めて確認した。齧歯類による種子・果実の持ち去り・ばら撒きは、森林更新において種子散布や発芽を助ける重要な生態機能であり、世界各地で報告されているが、マダガスカルでは未確認であった。今回の成果は、齧歯類が種子散布者として森林再生に寄与する可能性を裏付けたものである(掲載誌:Biotropica)。
マダガスカルは生物多様性ホットスポットであり、固有種の齧歯類が20種以上生息するが、これまで種子散布の主要な担い手はキツネザルと考えられてきた。しかし、森林火災や伐採によりキツネザルは絶滅の危機にあり、代替機能の探索が急務であった。齧歯類は個体数が多く、環境劣化にも適応できるため、散布機能の評価は保全戦略上重要である。
調査はマダガスカル北西部に位置するアンカラファンツィカ国立公園で実施され、果実をつけた樹木の下に種子を設置し、自動撮影カメラでネズミ等の行動を記録した。解析の結果、固有種オオアシナガマウス(Macrotarsomys ingens)とフデオアシナガマウス(Eliurus myoxinus)は19種中16種の植物の種子や果実を持ち去り、一部を地表浅くに埋める貯食行動を取ることが確認された。特にオオアシナガマウスは大型種子を運搬し、散布動物が限られる植物の再生に寄与する可能性が示唆された。
研究グループは今後、齧歯類による貯食種子の発芽率や他の散布動物との機能比較を進め、森林再生における齧歯類の役割を多角的に評価するとしている。