名古屋大学大学院生命農学研究科および環境学研究科、森林総合研究所、東京農工大学の研究グループは、人工林の極端に酸性で痩せた土壌では、ヒノキの根が発達させる『ルートマット』が土壌動物群集の形成に関与することを世界で初めて示した(掲載誌:Plant and Soil)。
土壌酸性化はカルシウムなどの養分流出やアルミニウムイオン増加を招き、生物に悪影響を及ぼす主要な土壌劣化要因である。熱帯雨林では酸性土壌に適応するため、樹木が細根を密集させたルートマットを形成し養分獲得を補うことが知られているが、温帯針葉樹で同様の応答が起こるか、さらに土壌動物に影響するかは未解明だった。土壌動物、とくにトビムシやダニなど微小節足動物は、微生物との相互作用を通じて落葉分解や養分循環を支える重要な群集であるが、酸性土壌での群集形成メカニズムは不明であった。
研究グループは、愛知県「あいち海上の森」のヒノキ人工林を対象に、土壌pH、ルートマットの厚さ、そこに棲む微小節足動物の種類と個体数を調査した。その結果、砂礫層地域ではルートマットが厚く発達し、酸性度が強いことが確認された。同地で確認された総計22,397匹の土壌動物を分類したところ、ルートマットが厚い場所では表層性のトビムシや捕食性のトゲダニ・カニムシが多く出現し、群集構成に顕著な違いが生じていた。これにより、樹木の根の応答が土壌動物群集の形成にまで及ぶことが明らかになった。
今回の成果は、酸性土壌における「土壌環境の変化→樹木の応答→土壌動物の応答」という地下プロセスを統合的に示した点で重要である。研究グループは、「こうした知見が気候変動や森林管理による土壌影響評価に不可欠であり、酸性土壌に特徴的なプロセスを考慮した人工林の維持・管理指針づくりに寄与する」と述べている。