国立極地研究所と総合研究大学院大学の研究グループは、東南極リュツォ・ホルム湾域で中期完新世(約9000〜6000年前)に氷床が約400 m急激に薄化したのち、65〜100 m再び厚化した履歴があることを初めて明らかにした。本研究では地域固有の氷床履歴を組み込んだ統合モデルを用いており、従来の全球モデルよりも今回の統合モデルが統計的に観測データと整合性が高いことが示された。この結果は、氷床変動解析において地域特性を考慮することが有効であることを示唆している(掲載誌:Scientific Reports)。
従来の全球モデル(例:ICE-6G)は、氷床が薄化後も一様に減少し続けると仮定していた。しかし、南極では観測点が限られ、過去の氷床変動の復元には不確実性があった。本研究では、露出年代測定、長期GNSS観測、GIAモデリングを統合し、薄化後に再厚化が起こる複雑な変動パターンを明らかにしている。今回、地形データ(露出年代)、長期GNSS(年間数mmの微小変位を10年以上蓄積)、粘弾性地球モデルに基づくGIA解析を、同一地域で同時に突き合わせることで、薄化後に安定化や部分的な再厚化が生じうるという"非単調な地域パターン"を具体的に同定することが可能となった。
本研究では、露出年代測定、GNSS観測、氷河性地殻均衡調整(GIA)モデリングを組み合わせ、東南極リュツォ・ホルム湾域の氷床変動を解析した。結果として、約9000〜6000年前に約400mの急激な薄化が起こり、その後65〜100mの再厚化が生じたことが確認された。さらに、解析からリソスフェアの厚さ(50〜70km)やマントルの粘性率(上部:5–7×10^20 Pa·s、下部:6–80×10^21 Pa·s)が推定され、観測データとの整合性が示された。これらの知見は、氷床変動と地球内部構造の関係を理解する上で重要な情報となり、海面上昇予測の精度向上に寄与する可能性がある。
研究グループは、「長期観測に基づく統合手法が南極他地域や北極にも拡張可能で、将来予測の精度向上に資する」と述べている。また、日本の南極地域観測事業(モニタリング観測)による10年以上のGNSSデータ蓄積が成果の基盤であり、長期観測体制の維持が不可欠だと強調している。
| 情報源 |
国立極地研究所 研究成果
総合研究大学院大学 プレスリリース |
|---|---|
| 機関 | 国立極地研究所 総合研究大学院大学 |
| 分野 |
地球環境 |
| キーワード | 地域特性 | 氷河性地殻均衡調整 | Glacial Isostatic Adjustment (GIA) | 露出年代測定 | GNSS観測 | リソスフェア厚 | マントル粘性 | 海面上昇予測 | 沿岸域レジリエンス | 長期モニタリング体制 |
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