東京大学生産技術研究所のパンディト サンタ氏らは、地理空間解析(GIS)と階層分析法(AHP)・多基準意思決定分析(MCDA)を統合し、ニホンジカの生息適性と人間との軋轢リスク(HDC)を同時に評価する汎用フレームを提示した(掲載誌:Ecological Informatics)。本手法は、"基準選定→意思決定階層の構築→専門家評価の収集→AHP"による重み付けという体系的4段階で構成され、保全計画や軋轢緩和の空間意思決定を支える。
シカの生息適性は土地要因(標高・傾斜・土地利用・農地面積)と環境要因(河川距離・地形湿潤指数TWI・地表面温度LST・植生指数NDVI・降水量)に区分して評価した。また、軋轢リスクは近接要因(シカ出現・森林・防護柵・道路・農地までの距離)と曝露要因(生息適地・人口密度・集落密度)で評価し、分野の異なる10名の専門家の評価を重み推定に反映した。
三重県多気町波多瀬地区を対象に本手法を適用した結果、環境要因の総合重みは0.70で土地要因0.31を大きく上回り、生息適性は生物気候学的プロセスに強く規定された。個別因子ではNDVIが最重要、次いで降水量と土地利用が続いた。HDCについては、生息適地が主要因(重み0.497)であり、集落密度・人口密度といった曝露要因が近接要因を上回って全体リスクを押し上げることが示された。空間分布は中程度の生息適地が約45%を占め、北部・東部の集落と高適性域の重複部にホットスポットが集中していることが可視化できた。
本研究は、生息適性と軋轢リスクを同一フレームで可視化し、防護柵の重点配置、忌避性植栽、繁殖制御、センサー型忌避装置などの施策を空間的に優先順位付けする基盤となり得るものである。今回提示した重み構造と評価枠組みは、人為改変が進む他地域にも転用可能であり、社会―生態学的条件の変化下での野生動物管理に実装的示唆を提供する。