海鳥の血液中に蓄積された水銀を利用し、世界の海洋における水銀の空間分布を推定する新たな手法が構築された。
名古屋大学と水産研究・教育機構を中心とした国際共同研究チームは、海鳥108種・11,000個体を超える血中水銀データを統合し、生物由来データにもとづく“海鳥ベースモデル”を作成した。これにより、従来はシミュレーションでしか得られなかった海洋水銀濃度の分布を、実測情報から把握する道が開かれた(掲載誌:Science of the Total Environment)。
海鳥は沿岸から外洋、熱帯から極域まで幅広い環境に生息するうえ、繁殖期には採餌範囲が限定されるため、特定海域の水銀濃度を短期間に反映する。本研究では、2017〜2024年に得られた血液サンプルに加え、文献情報を整理し、測定単位や部位を「全血乾燥重量あたり濃度」に統一し、異なる地域・種のデータを同一基準で扱う手法を確立した。
解析の結果、体重が重い種、栄養段階が高い餌をとる種、広い採餌域を持ち中深層の餌をとる種、および生産性の低い海域に生息する種で、水銀濃度が高い傾向が示された。海鳥ベースモデルと海洋生物地球化学モデルの推定値を比較すると、両者の分布には差異が見られ、生物による現場データがシミュレーションでは捉えきれない濃度パターンを含む可能性が示唆された。
海鳥にもとづく指標は、水俣条約に関連する国際的な水銀排出規制の効果検証に利用できる可能性がある。今後は、海鳥ベースモデルと既存モデルの違いが生じる要因を精査し、海洋水銀汚染の実態解明に向けて解析を拡張するという。