九州大学と生理学研究所は、筑波大学、東北大学および国立医薬品食品衛生研究所との共同研究において、メチル水銀(MeHg)の低濃度曝露が心不全の病態を悪化させる分子機構を解明したと発表した。有機水銀の過剰摂取や体内蓄積など、疾患発症の「環境要因」が問題視されているが、個別の疾病におけるリスク増大のメカニズムは未解明な点が多かった。同研究グループは、心不全の増悪につながる「心筋細胞の早期老化現象」と、その引き金となる「ミトコンドリアの異常分裂」に着目し、低濃度MeHg曝露マウスを作製し、心臓のストレス抵抗性や心機能低下(心不全)などを評価するとともに、心筋組織において起きている分子メカニズムの詳細解析を行った。その結果、MeHgがミトコンドリアの分裂を促進するタンパク質を「脱イオウ化」し、ミトコンドリア分裂と圧負荷によって誘発された心不全の悪化を誘発することが明らかとなった。タンパク質ポリイオウという物質量を指標とする、心不全の予防・治療法の開発に寄与する成果であるという。