北海道大学は、高山植物が鮮やかで美しい花を咲かせる背景と理由を繁殖・送粉生態学的に解き明かした。一般に植物のきれいな花は、花粉を運ぶ昆虫を引き寄せるために進化したと考えられている。しかし、高山帯では昆虫の活性が低く、受粉に失敗する場合も多いため、多くの高山植物は昆虫に頼らずに自家受粉で種子を作る能力を有していると考えられてきた。同大学の研究者は、国内外の様々な山岳地域でフィールド調査を行い、高山植物の生活史や繁殖・適応戦略の解明に取り組んでいる。北海道大雪山系の30年間にわたる生態調査の末、高山植物の多くが昆虫に頼った他家受粉で種子を作っていることを突き止めた。さらに46種・117集団の高山植物のうち85%は、自殖(自家受精)能力を持っていないことも明らかにした。これらの知見から、他殖に特化した高山植物の繁殖戦略(他殖シンドローム)が示唆されたという。本研究では、訪花(媒花)する昆虫の観察結果に基づき、高山植物を2つのタイプ(ハエ媒花、ハチ媒花)に区分し、開花時期(6~8月)と「結実成功率」の関係を分析している。ハエ媒花植物の結実成功率は開花時期を通じて横ばいである一方、ハチ媒花植物の結実成功率は開花時期の後半にかけて顕著に上昇する傾向、すなわち明瞭な「季節性」を有していることが判明した。特定の種を見ても、開花時期が遅い集団ほど結実率は高くなる傾向が認められた。他殖シンドロームは、集団の遺伝的多様性をもたらす戦略のひとつと考えられ、その進化的な意義の解明にはさらなる研究が必要だとしている。また、気候変動による高山植物の開花時期の変動は、ハチと植物の共生関係の崩壊につながる可能性がある、と指摘している。
情報源 |
北海道大学 プレスリリース
|
---|---|
機関 | 北海道大学 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 気候変動 | 共生関係 | 高山植物 | 遺伝的多様性 | ハチ | 生活史 | 大雪山 | 季節性 | 他家受粉 | 他殖シンドローム |
関連ニュース |