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 分布に文化的価値があった!「ヤモリと人」3千年史からの示唆

発表日:2022.12.01


  東北大学は、文理融合的なアプローチにより、ニホンヤモリ(学名:Gekko japonicus、通称:ヤモリ)の起源や分布拡大の歴史を推定した。住居の壁などに張り付き、害虫を捕食するヤモリ。その語源は“家の守り神(家守)”と考えられており、有益な生き物として古くから親しまれてきた。和名・学名から日本の在来種と認識されがちであるが、本州(秋田県以南)のみならず、朝鮮半島南部,中国大陸東部にも分布している。しかしながら、ニホンヤモリが外来種であることを決定付けるエビデンスは十分に揃っていない。日本列島に侵入・定着した時期や、人為分布あるいは自然分布に関する定説が存在しない状態が続いている。本研究は、古文書にヤモリの記述がしばしば見受けられることや、日本列島の集団が最終氷期以降(1万年前以降)に侵入したことを示唆する遺伝子研究の成果を踏まえ、デザインされている。古文書の網羅的調査とゲノムワイドの変異解析を組み合わせ、さらに人間社会の発展と絡めた考察を行うことで、ニホンヤモリの長大な分布変遷史を紐解いた。このオリジナリティ溢れるアプローチを通じて、ニホンヤモリは約3000年前に中国から九州に渡来し、その地域集団は平安時代末までに近畿へ、一部が東海道を東進して江戸後期~明治初期に関東へ、また戦国時代に近畿から北陸に移った系統が江戸時代に北前船の寄港地として栄えていた酒田へと移住したと推定された。これらの知見は、ニホンヤモリが人や物資の移動に伴って分布を広げたことを裏付け、現在の生物分布と多様性に対し、人と生物の関わりの歴史が強く影響したことを示唆している。一部の都道府県ではニホンヤモリを絶滅危惧種に指定し、保全する動きも活発化している。ニホンヤモリを日本社会の歴史が刻印された“生きた古文書”に喩え、歴史を経た外来種の新たな価値を尊重していく必要がある、と提言している。ただし、それと同時に、移入初期には明治以降移入した外来種の多くが示すような侵略性を示していた可能性があり、移入時期の新しい地域では、その影響が見落とされている可能性にも言及している。保全か防除かは、価値とリスクのバランスで判断されるべきであろう、と結んでいる。

情報源 東北大学 プレスリリース・研究成果
機関 東北大学
分野 自然環境
キーワード 外来種 | 自然分布 | 最終氷期 | ヤモリ | ニホンヤモリ | Gekko japonicus | 家守 | 人為分布 | 古文書 | ゲノムワイド
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