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 巨樹信仰を科学する!“パワー”の源は太さを育み、長寿を支える気候風土?

発表日:2023.02.21


  国立環境研究所生物多様性領域の中臺(なかだい)特別研究員は、人と巨樹の精神的な結びつきと、それを突き動かしている力(駆動力)を科学的に説明した(掲載誌:Nature Plants、DOI:10.1038/s41477-022-01337-1)。悠久の歴史を醸し出す巨樹は、人々に畏敬の念を抱かせ、独自の名前で呼ばれ、地域のアイデンティティ創出に寄与している。信仰の対象とされてきたものも多く、近年ではいわゆるパワースポットの象徴と見られるようになってきた。巨樹は 人間社会の“精神的な幸福”に少なからぬ影響を与えている。しかし、どんな巨樹に愛着を持ちやすいか、あるいは神聖さを感じるか、といった感覚を一律に評価することは難しく、定量的な議論の素地は未だ固まっていなかった。本研究では、大きな空間スケールで生物の個体数・分布・大きさ・多様性を扱う生態学(マクロ生態学)の視座から、巨樹の「精神的な生態系サービス」解明に迫っている。巨樹の太さや樹齢、生育地の気温・降水量や緯度・経度(以下「マクロ生態学的プロセス」)、そして信仰や固有名称(例:縄文杉)の有無、の相互関係に3つの仮説を立て、詳細検討に臨んでいる。仮説の検証に当たり、先ず「巨樹・巨木林データベース(環境省生物多様性センター)」の記録から活用可能なデータを抽出し、マクロ生態学的プロセスの諸条件との結びつけを行い、日本列島全域の幹周300 cm以上の巨樹38,994本のデータセットを集成した。次に、当該データセットを用いて、「区分的構造方程式モデリング」と呼ばれる総計的手法により、3つの仮説を同時検証した。その結果、仮説を支持する分析結果、すなわちa)太く、樹齢が長い巨樹ほど、信仰の対象となりやすく、固有名称を持ちやすい、b) 気温が低く、降水量が多い地域の巨樹ほど、太く、樹齢は長くなる、c) 分布する緯度や標高、年平均気温や降水量の違いが、巨樹の信仰の対象となりやすさと固有名称の持ちやすさに影響を与える、が得られた。言い換えると、マクロ生態学的プロセスが巨樹の太さや樹齢を介して、精神的な生態系サービスを直接的・間接的に促進する可能性があることが示唆された。本成果は、これまで定量的な評価が困難であった「精神的な生態系サービス」とその背後にあるマクロ生態学的プロセスとの関係を世界で初めて例示したものとなる。

情報源 国立環境研究所 報道発表
機関 国立環境研究所
分野 自然環境
キーワード 生物多様性 | 生態系サービス | 巨樹 | 環境省生物多様性センター | パワースポット | マクロ生態学 | マクロ生態学的プロセス | 縄文杉 | 巨樹・巨木林データベース | 区分的構造方程式モデリング
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