東京大学森林利用学研究室の研究グループは、韓国・忠南大学との共同研究により、森林バイオマスの安定供給を実現するための伐採計画手法を開発した。――本研究では、AIのマルチエージェント強化学習(MARL)アルゴリズムを用いて、複数の自治体が関与する森林伐採計画を協調的に最適化するモデルを構築した(掲載誌:Biomass and Bioenergy)。
静岡県富士森林計画区内に調査対象地域を設け、スギ・ヒノキを中心とした育成単層林をモデルに、6市2町にまたがる74,500小班・約28,000haの森林を対象とした。伐採計画は、分散部分観測マルコフ決定過程(Dec-POMDP)としてモデル化され、各自治体をエージェントとするMARLにより、伐採タイミングと量を調整することで、年間のバイオマス供給量の均衡化と最大化を図った。
シミュレーションでは、2022年および2024年の森林簿データと林野庁の成長予測モデルを用いて、伐採前後の材積成長率を評価。年間250haの伐採条件下で、バイオマス総収穫量は最大2,307.96 t/ha、年間収穫量の分散は最小6,071を記録し、発電量は19,583 kWh/haに達した。これは従来計画比で14.3%の増加に相当する。さらに、5000エピソードの学習後には、収穫量の分散が81.08%低減し、総収穫量も3.42%増加した。これは、収穫量の均衡化を重視した報酬設計によるものである。――本手法は、森林伐採問題へのMARLの初適用例であり、研究グループは「複数主体の協調による最適解の探索」が可能であることを実証できたことを訴求している。