東京大学大気海洋研究所の藤井賢彦教授を中心とする研究グループは、日本近海の浅海域に位置するCO₂噴出域(大分県姫島と鹿児島県昭和硫黄島)を海洋学の視点から初めて調査し、その生物地球化学的特性を明らかにした(掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science)。
海洋酸性化は大気中のCO₂が海水に溶け込み、水素イオン濃度が上昇することで進行する現象であり、人間活動に伴うCO₂排出が主因である。IPCCのRCP8.5シナリオでは、今世紀末までに海水pHが顕著に低下し、海洋生態系に深刻な影響を及ぼすと予測されている。浅海CO₂噴出域は、この将来予測を先取りする「天然の実験場」として注目されてきたが、日本近海での包括的な海洋学的調査は未実施だった。
本研究では、姫島と昭和硫黄島の噴出域で海水のCO₂濃度、pH、炭酸カルシウム飽和度を測定し、噴出域からの距離に応じた変化を解析した。その結果、噴出域周辺ではCO₂濃度が高く、pHが低下しており、IPCCシナリオで2040~2060年に到達すると予測される水準に近いことが確認された。また、ホンダワラ科海藻の被覆率や組成比の変化から、生物相の遷移と生物多様性の減少が明らかになった。これらの知見は、CO₂排出量の削減が不十分な場合、沿岸生態系がどのように変化するかを示す直接的な証拠である。
調査対象の噴出域はいずれもジオパークに位置しており、スタディツアーやエコツーリズムのフィールド教材として活用することで、海洋酸性化や気候変動の影響に関する社会的認識の向上に寄与できると期待される。
| 情報源 |
東京大学大気海洋研究所 プレスリリース
【参考】PEPS誌日本語要旨 |
|---|---|
| 機関 | 東京大学大気海洋研究所 |
| 分野 |
地球環境 |
| キーワード | 生物多様性 | IPCC | 海洋酸性化 | 沿岸生態系 | RCP8.5シナリオ | pH低下 | 浅海域 | CO₂噴出域 | 炭酸カルシウム飽和度 | ホンダワラ科海藻 |
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