製品評価技術基盤機構(NITE)は、海洋生分解性プラスチックの微生物分解過程を効率的に評価・解析する分析法を開発した(掲載誌:Polymer Degradation and Stability)。この分析法は、NITEが国内4海域で収集した微生物叢データや分離・分譲してきた微生物株の研究基盤を活用しており、海洋生分解性素材の開発や性能評価を迅速化し、国際的な試験法の標準化に資する知見を提供するものである。
近年、海洋プラスチックごみの影響が国際的課題となっており、日本でも「プラスチック資源循環戦略」や各種ガイドライン整備が進められている。そうした中、海洋で最終的に水・二酸化炭素へと無機化する製品へのニーズが高まりを見せ、"真の海洋生分解性"を追求する動きと信頼性向上が求められている。
既往研究では、プラスチック表面に形成される微生物群集「プラスティスフィア(plastisphere)」が分解に関与することが示されていた。今回開発した分析法は、プラスティスフィアの微生物分解挙動に伴い気相で発生する二酸化炭素をガスクロマトグラフィー(gas chromatography)で測定し、液相に残存する分解生成物を液体クロマトグラフィー質量分析法(liquid chromatography–mass spectrometry, LC‑MS)で解析するという二系統の計測を組み合わせている。これにより、多検体の生分解性を効率的に評価できるだけでなく、分解様式や代謝の違いを詳細に把握することが可能となった。実験では、同一微生物種でも分解経路や細胞への取り込みに多様性があることが示され、プラスティスフィア内で異なる種が協働して分解を進める仕組みが示唆された。また、本手法の確立により、多検体の生分解性評価が可能となり、検体ごとの分解様式や代謝取り込みの差異までを追跡できるようになった。さらに、CO2進化量に基づく海水中好気性生分解度の国際試験法(ISO 23977‑1、ASTM D6691)とも整合的な設計であることから、実験室条件下での潜在的な生分解性の比較検討も可能になるという。
NITEは国内4海域由来の大規模微生物叢データと分離株を継続的に分譲しており、解析データ付与株の利用により素材評価の再現性が一層向上すると展望している。今後は、海洋ごみ関連施策との連動を図りつつ、海洋生分解性プラスチックの社会実装に向けた技術開発事業(NEDO)や資源循環戦略と整合した試験法整備・データプラットフォーム公開を進める方針だ。