信州大学アクア・リジェネレーション機構、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、群馬大学大学院食健康科学研究科の共同研究グループは、独自開発した次世代型ポリ乳酸「LAHB」が水深855メートルの深海環境において分解を開始することを確認した。LAHBは、乳酸と3-ヒドロキシブタン酸(3HB)をランダム共重合した生分解性プラスチックであり、従来のポリ乳酸(PLA)と同等の成形性・透明性を持ちながら、より高い自然分解性を示す。
深海は低温・高圧・栄養乏しい環境であり、プラスチックの分解が極めて困難とされてきた。海洋プラスチックごみの多くが最終的に深海底に堆積することが明らかになっている中で、深海での分解性は「自然に還るプラスチック」の実現に向けた重要な指標とされる。
本研究では、JAMSTECの有人潜水船「しんかい6500」を用いて、初島沖の水深855mにLAHBフィルム(乳酸含率6 mol%、13 mol%)およびPLAフィルムを設置。7か月および13か月後に回収した結果、LAHBは時間経過に伴い重量減少を示し、表面には微生物群が集まり分解を進めている様子が電子顕微鏡で確認された。一方、PLAには分解の兆候は見られなかった。さらに、LAHB表面に形成された微生物群集(プラスティスフィア)をオミクス解析により網羅的に調査した結果、LAHBを好む微生物群が複数確認され、特に「UBA7957」が乳酸成分の分解に中心的な役割を果たす可能性が示された。ポリマー分解関連酵素の活発な発現も確認されており、LAHBが微生物の働きによって自然に分解される素材であることが示唆された。
本成果は、従来のPLAが自然環境で分解しにくいという課題に対し、LAHBが深海でも分解可能であることを実証したものであり、海洋プラスチック問題の解決に向けた新たな技術的選択肢を提示している。研究グループは今後、食品容器、農業用フィルム、漁具など海洋流出リスクの高い製品への応用を視野に、製造効率や物性の改良を進めるとともに、土壌・河川など多様な環境での分解性評価を行い、社会実装を目指すという。