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 市民科学に基づく発見!ウミニナ北限個体群の生活史変化 国環研など

発表日:2022.08.02


  国立環境研究所、熊本大学およびMutsu Bay Dolphin Researchの研究グループは、むつ市立川内小学校との共同研究を通して得た、「ウミニナ(学名:Batillaria multiformis)」分布北限個体群に関する新知見を論文化した(掲載誌:Ecological Research)。ウミニナはアジア各地に広く分布する巻き貝の一種。日本では本州以南の干潟に高密度で生息していたが、高度経済成長期以降、個体数や生息地が著しく減少し、環境省レッドリスト2020のカテゴリーは準絶滅危惧種とされている。分布北限については複数の考え方がある。太平洋岸では宮城県北部、日本海岸は石川県能登半島とされ、2007年に青森県「陸奥湾」の「人工海浜」で新たな個体群が見つかっている。これまで関東以北のウミニナについては十分な生態調査が行われておらず、干潟生物に対する気候変動の影響を知る上で、最も高緯度にある分布北限(陸奥湾)個体群の調査が急務となっていた。そこで、同研究グループは、近年、生態学や環境科学関連の分野で大きく発展しつつある「市民科学的アプローチ」に着目し、当該人工海浜近くに位置する川内小学校との「気候変動による海の生きものへの影響評価・予測研究」を計画した。調査は学校の授業の一環として6年間にわたり実施された(2014~2019年)。同小学校の教諭と研究者のサポートのもと、小学校5年生の児童が地温の連続測定・記録などを含む一連の作業に取り組んだ。ウミニナが夏と冬に干潟のどこにどれだけいるかを調べ、2014年7月~2016年9月の間は、累計129個体のウミニナの殻にマーキングを行い(標識再捕獲法)、現場における成長の季節変化を記録するとともに、サンプル採取および生殖腺の発達段階を目視で評価するといった本格的な調査が行われている。その結果、ウミニナ分布北限の個体群は、他地域と比較して成長や成熟が遅いものの、大型化することが明らかになった。また、マーキング個体の成長を2年間追跡したところ、低温の夏には成長が見られず、高温の夏には1ヶ月で殻長が4.6 mmも成長したことから、「夏場の温度」が年間成長量を決定していることが分かった。本研究により、気候変動にともなう温度の変化が干潟に暮らす海産動物の生活史特性を変化させること、その影響は分布北限付近でより大きくなる可能性があること、そして、地域の生態系保全に向けた「市民科学」の重要性、が示唆されたと結んでいる。

情報源 国立環境研究所 報道発表
機関 国立環境研究所 熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター Mutsu Bay Dolphin Research
分野 自然環境
キーワード 気候変動影響 | 分布北限 | 生活史 | 陸奥湾 | ウミニナ | 準絶滅危惧種 | 人工海浜 | 市民科学的アプローチ | マーキング
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