静岡大学農学部は、岐阜大学大学院連合農学研究科(配属:静岡大学)の大畑裕太特別協力研究員と田上陽介准教授の研究チームが、昆虫の体内に生息する共生細菌を標的とした新しい害虫防除手法を開発したと発表した。本研究では、植物病害用の抗菌剤「MycoShield®」(主成分:オキシテトラサイクリン)を用いて、害虫の繁殖に不可欠な共生細菌を除去することで、個体群の縮小を実現した。
共生細菌は、昆虫の栄養摂取や繁殖に深く関与しており、特にクリバネアザミウマなどの害虫では、メスの産生に必須であることが知られている。本研究では、抗菌剤を通常通り散布することで、クリバネアザミウマの体内に存在する共生細菌(ボルバキア)を効果的に減少させ、結果として個体数の急激な減少を確認した。100日以内に絶滅した試験区も存在した。一方で、同じく共生細菌に依存する天敵寄生蜂ハモグリミドリヒメコバチにも影響が及び、子の数が大きく減少した。これは、抗菌剤が非標的生物にも作用する可能性を示しており、今後の防除設計において重要な課題となる。
本研究は、「Frontiers in Microbiology」電子版で公開された。日本では2021年に「みどりの食料システム戦略」が策定され、化学農薬リスクの50%削減を目指す中、環境負荷の少ない新規防除技術の開発が求められている。本研究はその流れに沿ったものであり、選択性が高く、「薬剤抵抗性の出現リスクが低い持続可能な防除法」として注目される。──研究チームは今後、共生細菌に特異的に作用する製剤の選定や、天敵との共存を考慮した散布条件の最適化、圃場での長期実証試験を通じた総合防除(IPM)への組み込みを進める方針である。
情報源 |
静岡大学 News & Topics(研究)
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機関 | 静岡大学 |
分野 |
健康・化学物質 自然環境 |
キーワード | IPM | 共生細菌 | みどりの食料システム戦略 | 抗菌剤 | 天敵昆虫 | 生態系影響 | 害虫防除 | 繁殖干渉 | 持続可能農業 | オキシテトラサイクリン |
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