東京大学生産技術研究所(生研)を中心とする研究チームは、南極の海氷や棚氷の下を自律的に航行し、氷の裏面形状を高精度に計測できるAUV(自律型海中ロボット)「MONACA(モナカ)」の開発と運用に成功したと発表した。2024年度の第66次南極地域観測において、リュツォ・ホルム湾およびトッテン氷河沖での無索(ケーブルなし)運用を実現した。これらの海域でのAUVの無索航行は世界初となる。
MONACAは、全長2.1 m、重量235 kg、最大潜航深度1,500 mの小型AUVで、氷の裏側に最大10km潜入可能な設計となっている。マルチビームソーナー、DVL(ドップラー速度計)、INS(慣性航法装置)などを搭載し、氷や母船との相対ナビゲーションを実現。さらに、上下反転可能なセンサユニットやホバリング機能を備え、複雑な氷の裏面形状に沿った航行や海底計測にも対応する。
第66次観測では、東京海洋大学、国立極地研究所、東京大学の研究者らが参加し、リュツォ・ホルム湾で8回、トッテン氷河沖で2回の航行を実施。うち各1回が無索航行であり、100〜200 mの往復に成功した。これにより、母船から数百メートル離れた範囲の探査が可能となり、従来困難だった棚氷下部の観測が現実的な目標となった(掲載誌:Journal of Robotics and Mechatronics)。──南極は地球規模の熱・水・物質循環における重要なリザーバであり、氷床と海洋の相互作用の解明は、気候変動予測の高精度化に不可欠である。MONACAの無索運用は、氷海域における観測技術のブレイクスルーであり、今後の第67次観測ではさらなる長距離運用が計画されている。