岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域(農)の宮竹貴久教授は、東京大学の松村健太郎助教と共同で、外来農業害虫ウリミバエ(Zeugodacus cucurbitae)を用いた実験を通じて、「生物の分布や発育の速さを決定する指標が進化によって変化する可能性」を初めて実証した(掲載誌:Entomologia Experimentalis et Applicata)。
従来、発育ゼロ点(発育が停止する温度)と有効積算温度(発育に必要な温度の合計)は、種ごとに固有とされ、病害虫防除の予察に用いられてきた。しかし近年、遺伝的差異によって同一種内でもこれらの指標に変動があることが報告されており、固定的な特性とみなす従来の理解に疑問が呈されていた。本研究では、こうした指標が進化的に変化し得るかを検証するため、特殊害虫ウリミバエを用いた実験を行った。
具体的には、発育期間の長短や繁殖開始齢に人為的な選抜を加えたウリミバエの系統を用い、5つの異なる温度条件下で幼虫期間と発育期間を測定した。その結果、発育期間の長い集団と短い集団では発育ゼロ点と有効積算温度に有意な差があり、繁殖タイミングの異なる集団間でも同様の傾向が確認された。これは、生活史形質に選択圧がかかることで、分布域や発生時期を決定する指標そのものが進化的に変化し得ることを示している。
宮竹教授は、「近年、地球温暖化やインバウンドの影響で外来生物の侵入が増加しており、農業や生態系への影響が深刻化している。こうした状況下では、スマート化や効率化だけでなく、人手による地道なデータ取得が不可欠である」と述べており、現場に根ざした研究の重要性を強調している。
本研究は、応用昆虫学と農学の分野において、害虫管理の予察手法に新たな視点を提供するものであり、生活史形質の進化が分布予測に影響を与える可能性を示した点で、社会的意義も大きい
情報源 |
岡山大学 プレスリリース
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機関 | 岡山大学 |
分野 |
自然環境 |
キーワード | 遺伝的変異 | ウリミバエ | 有効積算温度 | 発育ゼロ点 | 生活史形質 | 特殊害虫 | 人為選抜 | 病害虫防除 | 分布予察 | 応用昆虫学 |
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