近年、温暖化に伴う強光・高温環境の頻発により、植物の光合成系が受けるストレスは増大している。特にPhotosystem I(PSI)は光障害からの回復が遅く、作物の生育や収量に深刻な影響を及ぼすため、PSIの光保護技術は世界的な研究課題となっている。こうした背景のもと、光合成電子伝達の要であるシトクロムb6/f複合体の量を制御することで、PSIの安定性を高める新たな戦略が注目されている。
東京大学大学院農学生命科学研究科の兒玉大昌氏、谷川慶一郎氏、矢守航准教授らの研究グループは、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターおよび国立中興大学(台湾)との共同で、シトクロムb6/f複合体の量的制御が光合成能力とPSIの安定性のトレードオフ関係を調整する鍵であることを明らかにした(掲載誌:Physiologia Plantarum)。
研究グループは、シトクロムb6/f複合体の量を段階的に減少させたトランスジェニックタバコを作成し、変動光環境下での光合成応答を解析した。その結果、野生型植物では、強光と弱光が繰り返される条件下でPSIが大きなダメージを受けたのに対し、複合体量が大幅に減少した植物では、光合成能力は低下するものの、PSIが常に酸化状態に保たれ、光障害をほとんど受けなかった。
この現象は、シトクロムb6/f複合体が電子の流れを制限する「ブレーキ」として機能し、PSIへの過剰な電子供給を防ぐことで実現される。実験では、光合成パラメータの変化や光阻害の指標を用いて、複合体量とPSI保護の関係が定量的に示された。本成果は、野外の作物栽培において、強光と影が繰り返される変動光環境下でも光合成装置の損傷を軽減し、安定した生育を実現する新たな技術開発に貢献する可能性を示している。特に、温暖化進行下の施設園芸や露地栽培における環境制御技術の高度化に資する知見として注目される。
情報源 |
UTokyo FOCUS
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機関 | 東京大学 |
分野 |
地球環境 自然環境 |
キーワード | トレードオフ | 光合成電子伝達 | 光化学系Ⅰ | シトクロムb6/f複合体 | 変動光 | 光障害 | 光合成能力 | 植物ストレス応答 | 屋外栽培 | レジリエンス技術 |
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