立命館大学生命科学部と同大学大学院生命科学研究科の研究チームは、PFAS(ペルフルオロアルキル化合物)の中でも分解が困難とされるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)を、低毒性の酸化亜鉛(ZnO)ナノ結晶と市販の近紫外LED光を用いて常温・常圧下で分解し、フッ化物イオンにまで還元する技術を開発した(掲載誌:Chemical Science)。生成したフッ化物イオンは、カルシウムイオンを添加することで原料鉱石であるホタル石(フッ化カルシウム)として回収可能であり、環境浄化と資源循環の両立を実現する新たな光触媒技術として注目される。
PFASは「永遠の化学物質」と呼ばれ、強固な炭素–フッ素結合により環境中で分解されにくく、生体蓄積や健康リスクが国際的に問題視されている。従来の分解法は800℃超の高温処理や強酸化剤、深紫外光など過酷な条件を要し、省エネルギーで持続可能な代替技術の開発が急務であった。研究チームはこれまでCdSナノ結晶を用いた分解技術を報告していたが、カドミウムの毒性が産業応用の障壁となっていた。今回、低毒性で安価なZnOに着目し、光触媒特性を活用することで実用化に直結する技術を確立した。
実験では、PFOS水溶液に酢酸イオンで表面修飾したZnOナノ結晶と正孔捕捉剤を加え、近紫外LED光(波長365nm)を照射した結果、10時間でPFOS残存率を0.5%まで低減し、触媒回転数(TON)は8,250に達した。これは従来の光触媒系を大きく上回る効率である。さらに、生成したフッ化物イオンは資源として再利用可能であり、環境修復と資源循環を両立する次世代技術として期待される。研究チームは、水処理施設や産業排水処理、PFAS吸着フィルター再生など幅広い応用可能性を示唆しているという。なお、本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ、日本学術振興会科研費、学術変革領域研究(A)の支援を受けて実施された。