北海道大学、京都大学および長崎大学の研究グループは、疫学的分析の手法を用いて、タイで施行されている「厳正な野焼き禁止(以下『大気質改善施策』)」によって「呼吸器疾患の受診数」が約10%低下したことを解明した。大気汚染物質による健康影響が指摘されて久しく、平成30年3月に環境省は「微小粒子状物質(PM: Particulate Matter)と野焼き行為の関連について」を通知し、地方自治体に対して野焼きの防止に係る取組を促している。東南アジアでも焼き畑や森林火災、農業残渣(稲わら)の野焼きによる呼吸器疾患の増加が懸念されている。タイでは2000年代から「野焼きゼロ」キャンペーンが進められ、PM濃度のさらなる低減を期待して2016年5月から大気質改善施策を推進している。PMを指標とする環境政策評価は数多く報告されているが、PMに由来する健康被害との直接の結びつきに関する調査研究が不足していることから、同研究グループは、タイ北部8県における疫学研究の一環として、分割時系列解析(interrupted time series analysis)という疑似実験の手法を用いた評価を試みた。具体的には、2014~2018年の1月から4月を対象期間とし、大気質改善施策の施行前(2014~2016年)・施行後(2017~2018年)における諸指標(PM10濃度、衛星画像により検出した野焼きホットスポットの件数、年齢調整した呼吸器疾患受診数)の変化を、気候要因等の影響を除外する処理など行った上で推論した。その結果、施行後にPM10とホットスポット数の減少が認められ、大気汚染とは関連のない胃腸疾患受診者数は増加したにも関わらず、呼吸器疾患受診者数が約10%低下したことが示唆された(施行前比)。大気質改善施策の導入は大気汚染物質の大幅低減のみならず、「住民健康改善効果」をもたらす、と結んでいる。
情報源 |
北海道大学 TOPICS
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機関 | 北海道大学 長崎大学熱帯医学研究所 京都大学 |
分野 |
健康・化学物質 |
キーワード | タイ | 微小粒子状物質 | PM10 | 呼吸器疾患 | 大気質改善 | 野焼き | 疫学的分析 | 分割時系列解析 | 疑似実験 | 住民健康改善効果 |
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