静岡大学グリーンサイエンス・技術研究所の中村昭彦教授(2025年3月まで分子科学研究所クロスアポイントメント教授を兼任)を中心とする研究チームは、PET(ポリエチレンテレフタレート)廃棄物の持続可能なリサイクルを可能にする新規酵素「PET2-21M」の開発に成功した。本研究には、キリンホールディングス、分子科学研究所、大阪大学蛋白質研究所の研究者も参画している。
PETは、飲料ボトルや繊維、包装材などに広く使用される合成樹脂であり、特に繊維分野では市場の約83%を占める。しかし、従来の機械的リサイクルでは品質劣化が避けられず、化学的リサイクルは高温・有害薬品を必要とするため、環境負荷が高い。これに対し、酵素による分解は低温・水系条件下でPETをモノマーに戻すことが可能であり、環境負荷の低い手法として注目されている。
研究チームは、既存のPET分解酵素「PET2」をベースに、ランダムおよび標的変異導入を組み合わせた酵素工学的手法により、PET2-21Mを設計。酵素表面の正電荷化や基質結合部位の改良を施し、酵素活性を飛躍的に向上させた。さらに、酵母(Komagataella phaffii)を用いた大規模発現系を確立し、PET2-21Mは24時間で市販ボトルグレードPET粉末の約95%を分解する能力を示した。これは従来の代表酵素LCC-ICCGと比較して、より低温(60℃)かつ低酵素濃度でも高い分解効率を維持する点で優れている。また、PET2-21Mの前駆体であるPET2-14M-6Hotは、PET/綿やPET/ポリウレタンなどの複合繊維の分解にも成功。特にPET/PU混合繊維に対しては、従来酵素の2倍以上の分解生成物を得ることができた。これにより、従来困難とされていた繊維系廃棄物の酵素分解にも道が開かれた。
本成果は、酵素によるPETリサイクルの産業化に向けた大きな一歩であり、低エネルギー・低コストで多様なPET廃棄物を処理可能な技術として、循環型プラスチック経済の実現に貢献するものである(掲載誌:ACS Sustainable Chemistry & Engineering)。
情報源 |
分子科学研究所 Press Release
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機関 | 分子科学研究所 |
分野 |
ごみ・リサイクル |
キーワード | ポリエチレンテレフタレート | 分子科学研究所 | 循環型経済 | 環境負荷低減 | 繊維廃棄物 | 酵素リサイクル | 酵素工学 | バイオ触媒 | 酵母発現系 | 化学リサイクル代替 |
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