北海道大学、東海大学、国立極地研究所およびドイツ・アルフレッドウェゲナー極地海洋研究所などからなる国際共同研究グループは、国際通年漂流観測「MOSAiC」計画に参画し、中央北極海のメルトポンドにおける栄養塩動態を解明した(掲載誌:Journal of Geophysical Research: Oceans)。
メルトポンドとは、夏季の北極海で海氷が融解して形成される水たまりのこと。近年の温暖化によりその面積が拡大している。藻類の光合成に不可欠な栄養塩(窒素・リンなど)の供給源としての役割が注目されているが、メルトポンド自体の栄養塩動態に関する知見は限られていた。
本研究では、メルトポンド水および直下の海氷を採取し、栄養塩濃度や有機物の沈降、バクテリア活性などを多角的に分析した。その結果、メルトポンド内で生産された有機物が沈降・分解されることで、直下の海氷上部に栄養塩が再生・濃縮されることが明らかとなった。また、積雪融解水の流入や海水との交換によっても栄養塩が供給され、藻類の生産を支えるサイクルが形成されている可能性が示された。これらのプロセスは、特に多年氷において顕著であり、海氷融解時に表層海洋への栄養塩供給を促進する機構として機能することが示唆された。 研究グループは、メルトポンドを介した栄養塩の濃縮と再供給のメカニズムが、今後の北極海における炭素循環や生物生産の変化を予測する上で重要な要素になると指摘している。今後は、日本の北極域研究船「みらいII(竣工・引き渡し予定:2026年11月頃、運用予定者:海洋研究開発機構)」を活用した詳細観測などを通じて、海氷−海洋間の物質循環の定量的評価と、気候変動影響の理解に資する展開が期待される。