クリーンコールテクノロジー

 クリーンコールテクノロジーとは、環境低負荷型の石炭利用技術の総称で、従来の石炭火力発電所の発電効率の向上や、SOx、NOx、ばいじん等の環境負荷の低減、その他の環境低負荷型エネルギー利用プロセスに寄与する石炭利用技術である。
 石炭は、化石燃料の中で最も資源量が多く、安価な資源であることから、世界的にみて今後も重要なエネルギー源になると見込まれるが、その一方でSOx、NOx、ばいじん等の大気汚染物質の排出量が多く、また、温室効果ガスであるCO2の排出量も多いエネルギー源でもある。このため、これら石炭のマイナス面を総合的に解決する技術であるクリーンコールテクノロジーが注目されている。
 クリーンコールテクノロジーの要素技術は、石炭の採掘から発電所での燃焼、排ガス処理といった石炭の利用に関するすべての段階に関連するが、特に注目されているのは、石炭をガス化して水素、一酸化炭素等の可燃性ガスに変換し、複合サイクル発電を行うことにより、発電効率の向上と環境負荷の削減を達成する石炭ガス化複合発電(Integrated Coal Gasification Combined Cycle:IGCC)である(下図)。IGCCは国内でも実証試験が行われており、実用化が期待される。また、最近では地球温暖化対策の重要性に対する認識が高まるにともない、石炭を燃焼させた後の二酸化炭素の固定化や貯留の技術もクリーンコールテクノロジーに含めてとらえ、ゼロエミッション型の石炭火力発電所を目指す考え方も広がっている。

石炭ガス化複合発電(IGCC)の概要

石炭ガス化複合発電(IGCC)の概要
出典:中国電力(株)ニュースリリース(平成20年6月2日)
http://www.energia.co.jp/press/08/p080602-1a.pdf

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1.背景

1)日本での石炭利用の経緯

 石炭は、かつて水力とともに我が国の主要なエネルギー源であった。戦後、特に1960年代の後半から、取扱いの容易な石油が安く輸入されるようになり、石炭のシェアが減少したが、1970年代の石油危機を契機に石炭の役割が見直されるようになり、1970年代からは1次エネルギー供給のうち、13~20%程度の割合を推移している。2007年度の一次エネルギー国内供給のシェアは全体の22%となっており(図1)、我が国の1次エネルギー供給源としては、石油に次いで第2位である。


図1 一次エネルギー国内供給比率(2007年度)
出典:資源エネルギー庁「平成19年度(2007年度)エネルギー需給実績(速報)」にもとづき作成
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/jukyu/resource/pdf/081112_sokuhou.pdf

 石炭は、原油やLNG(液化天然ガス)に比べれば安価であり、可採埋蔵量が最も多く、かつ採掘地域も世界各地に分布している(図2)。そのため、エネルギーセキュリティーの観点から、火力発電所の重要な燃料源として今後も利用が続くと考えられる。


図2 世界の石炭埋蔵量
出典:(株)クリーンコールパワー研究所「石炭ガス化複合発電(IGCC)実証プラント開発の動向」
http://www.ccpower.co.jp/ref/fy2001/gijutu.pdf

2)石炭利用にともなう環境影響

(1)大気環境
 石炭は、石油に比べて単位熱量当たりの硫黄分、窒素分が多く、灰分も多く含まれることから、燃焼時にはSOx、NOx、ばいじん等の大気汚染物質の排出量が多い。大気汚染防止法などの公害関連法規が制定される以前の石炭火力発電所では、環境対策は主として簡単な集塵装置のみに依存しており、大気汚染の問題が生じていた。その後、SOx、NOx、ばいじんの規制が強化されるにともない、排煙脱硫技術、排煙脱硝技術などクリーンな石炭利用技術の導入が進んだ。
 その一環として、1980年代半ばより、クリーンコールテクノロジー(環境低負荷型の石炭利用技術)の研究開発が進められ、石炭液化技術や石炭ガス化技術の研究が行われた。現在の日本は、石炭利用における環境対策において、世界のトップランナーと言われる状況にある。

(2)地球温暖化
 さらに石炭は、単位重量当たりの発熱量が石油、天然ガスよりも小さいことから、同じ発熱量を得るためには石油、天然ガスよりも多くの燃料を消費することになり、温室効果ガスであるCO2の排出量も多くなる。表1は、燃料別の二酸化炭素排出量の例である。原料炭と一般炭の排出係数(発熱エネルギーあたりの炭素排出量)が大きくなっている。

表1 燃料別の二酸化炭素排出量の例
燃料の種類の例排出係数単位発熱量単位当たり
二酸化炭素排出量
原料炭0.0245tC/GJ28.9GJ/t2.596kg-CO2/kg
一般炭0.0247tC/GJ26.6GJ/t2.409kg-CO2/kg
原油0.0187tC/GJ38.2GJ/kl2.619kg-CO2/l
ガソリン0.0183tC/GJ34.6GJ/kl2.322kg-CO2/l
ジェット燃料油0.0183tC/GJ36.7GJ/kl2.463kg-CO2/l
灯油0.0185tC/GJ36.7GJ/kl2.489kg-CO2/l
軽油0.0187tC/GJ38.2GJ/kl2.619kg-CO2/l
A重油0.0189tC/GJ39.1GJ/kl2.710kg-CO2/l
液化天然ガス(LNG)0.0135tC/GJ54.5GJ/t2.698kg-CO2/kg

出典:経済産業省・環境省「特定排出者の事業活動に伴う温室効果ガスの排出量の算定に関する省令」にもとづき作成
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H18/H18F15002002003.html

(参考)燃焼して同じ熱量を得るために排出される二酸化炭素排出量(排出係数)の比
石炭(一般炭):原油:液化天然ガス(LNG)=10::7.5:5.5
出典:中央環境審議会総合政策・地球環境合同部会第3回グリーン税制とその経済分析等に関する専門委員会資料
http://www.env.go.jp/council/16pol-ear/y164-03.html

 以上のような背景と、今後も石炭が重要なエネルギー源であることを考慮すると、さらなる環境低負荷型の石炭利用技術を開発していく必要があり、より先進的なクリーンコールテクノロジーが求められている。こうした背景を踏まえて、石炭ガス化複合発電を含む様々な石炭利用技術の研究が進められている。

2.技術の概要

 クリーンコールテクノロジーの中でも、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated Coal Gasification Combined Cycle)は、従来の石炭火力発電所と比較して高効率な発電が可能なため、近年研究および実用化試験が盛んに行われている。以下に、石炭ガス化複合発電(IGCC)の要素技術および実例を示した。

1)石炭ガス化複合発電(IGCC)の要素技術

 石炭ガス化複合発電(IGCC)に含まれる技術は、石炭の前処理、転換(液化、ガス化)、後処理技術、排ガス処理など多様な技術が含まれる。石炭利用の各工程(コールフロー)における要素技術は図3に示す通りである。これらの概略は以下の通りである。

(1)前処理技術
 石炭の前処理技術には、採掘された石炭を選鉱して、高品位の石炭を選び出す技術や、石炭中の硫黄分をあらかじめ除去する技術(石炭脱硫)などがある。

(2)ハンドリング技術
 ハンドリング技術は、固体で取扱いが面倒な石炭の性状を改変して、ハンドリング(取扱い)が容易な状態に変換するとともに、環境負荷も低減させる技術である。例えば、石炭液体混合燃料の製造技術では、石炭に石油や水を混合して液状にし、ばいじんの問題を解決するとともに、取扱いの容易なクリーンな燃料として製造することを可能にする。石炭と水の混合物はCWM(Coal Water Mixture)、石油との混合物はCOM(Coal Oil Mixture)と呼ばれる。

(3)転換(液化、ガス化)技術
 転換技術には、石炭を液化又はガス化する技術が含まれる。石炭液化では、石炭を化学的に分解して液体状の燃料に変換し、石油代替の燃料として用いるものである。液化することにより、ばいじんの発生やハンドリングの問題を解決し、環境負荷も低減させる。石炭ガス化は、液化と同様に石炭を分解してガスに変換し、燃料として用いるものである。後述する石炭ガス化複合ガス発電のような高効率で環境負荷の少ない石炭利用サイクルが実現できる。

(4)燃焼技術
 火力発電所における石炭の燃焼方式は、石炭を粉末状(微粉炭)にして、ボイラーに吹き込んで燃焼させる方式が主流である。微粉炭燃焼方式の効率を向上させるためには、ボイラーの燃焼条件をより高温高圧にすることが必要で、そのためのボイラー材料の開発が進められている。
 これ以外には、石炭を流動床と呼ばれる流動状態で燃焼させ、高効率の発電を行うとともに大気汚染物質の排出を低減させる技術(加圧流動床燃焼)等の様々な技術がある。

(5)後処理技術
 燃焼後の後処理では、排ガス中のSOx、NOx、ばいじんの処理技術が代表的である。これらについては、それぞれ排煙脱硫技術排煙脱硝技術ばいじん処理技術の解説を参照されたい。これ以外には、石炭灰の処理技術等の廃棄物処理技術も含まれる。(なお、CO2の固定・貯留技術については、CO2固定技術及びCO2回収・貯留(CCS)の解説を参照のこと。)

 これらの中で近年、石炭ガス化技術は、高効率発電の有力候補としても開発が進められている。この技術は、石炭をガス化することによって、ガスタービン・蒸気タービンおよび燃料電池でカスケード的にエネルギー回収をするものであり、実用化されれば総合発電効率の飛躍的な向上が期待できる。
 以下では、特に石炭ガス化技術について、その概要を紹介する。

図3 コールフロー別のクリーンコールテクノロジーの要素技術

図3 コールフロー別のクリーンコールテクノロジーの要素技術
出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構・(財)石炭エネルギーセンター「日本のクリーン・コール・テクノロジー」 
http://www.brain-c-jcoal.info/cctinjapan-files/japan/1_2.pdf

2)石炭ガス化技術の概要

 石炭ガス化技術は、石炭に酸素、空気、水蒸気等を接触させて、水素や一酸化炭素、メタン等のガスを得る技術である。また、石炭ガス化複合発電(IGCC)は、石炭ガス化により得られたガスを燃焼させてガスタービンによる発電を行い、次いでその排熱を回収して蒸気タービンによる発電を組み合わせる方式である。
 図4は、電源開発(株)と中国電力(株)による酸素吹き石炭ガス化技術の実証プラントのフローで、このシステムでは石炭に酸素を吹き込んでガス化を行う。具体的には、まず空気から空気分離装置によって酸素のみを分離し、石炭とともにガス化炉に注入する。ガス化炉では、酸素と石炭とが反応して生じる熱を利用して石炭を分解し、水素、CO等のガスを得る。この時、通常の燃焼条件では石炭が燃焼してCO2と水蒸気が生じるので、それより酸素が少ない条件(化学等量以下)で行う。得られた水素、CO等の可燃性ガスを燃焼させてガスタービン発電を行うとともに、ガス化炉の排熱を利用して蒸気を発生させ、蒸気タービンによる発電も行う。発電効率は、従来の石炭火力が約42%であるのに対して、商用段階のIGCCでは48~50%を期待できる。

図4 石炭ガス化複合発電(IGCC)の概要

図4 石炭ガス化複合発電(IGCC)の概要
出典:中国電力(株)ニュースリリース(平成20年6月2日)
http://www.energia.co.jp/press/08/p080602-1a.pdf

 石炭ガス化技術については、上で紹介した以外にも国内で実証試験が行われている。その概要を以下に示す。

(1)多目的石炭ガス製造技術(EAGLEプロジェクト)
 EAGLEプロジェクト(coal Energy Application for Gas, Liquid & Electricity)は、電源開発(株)若松研究所(福岡県北九州市)で実施されている石炭ガス化技術のガス化プロジェクトで、得られたガスは燃料電池や発電など多目的に利用する。
 プラントはガス化部、ガス精製部、ガスタービン部の3つで構成され(図5、6)、石炭を酸素でガス化し、灰分をスラグ(焼却灰等を高温で溶融し、冷却して固化させたもの。容量が小さく、溶出しないなどの特長がある)として排出させる。発生したガスは精製後、ガスタービンを駆動させ、発電が行われる。
 既に2002年より実証試験運転が開始されており、これらのシステムに、ガスタービンからの廃熱回収蒸気による蒸気タービン発電と、精製後のガスによる燃料電池発電の各システムを追加することで、石炭ガス化燃料電池複合発電(Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle, IGFC)に活用できる。IGFCの送電端効率(発電電力量から発電所内で使った電力量を差し引いた電力量で計算する発電効率)は55%を超えると期待されている。

図5 EAGLE プラント構成図

図5 EAGLE プラント構成図
出典:(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構・(財)石炭エネルギーセンター 「日本のクリーン・コール・テクノロジー」
http://www.brain-c-jcoal.info/cctinjapan-files/japan/2_2B3.pdf

図6 EAGLEガス化炉

図6 EAGLEガス化炉
出典:電源開発(株)ニュースリリース(平成19年5月7日)
http://www.jpower.co.jp/news_release/news070507_1.html

(2)空気吹き石炭ガス化複合発電の実証試験
 福島県いわき市の(株)クリーンコールパワー研究所では、出力25万KWの石炭ガス化複合発電(IGCC)実証機を建設し、平成2007年9月から実用化に向けた運転試験を行っている(図7)。このプラントでは、石炭をガス化する際、従来の欧米のIGCCで採用されていた酸素吹き方式のかわりに、空気吹き方式を採用することで、酸素製造時の電力が削減されている。これにより、酸素吹き方式では40%弱だった送電端効率を、48~50%にできると期待されている。酸素吹き方式と空気吹き方式の比較を表2に示す。
 空気吹き方式は、海外でもガス化技術の開発当初に試みられたが、当時の技術ではスラッギング(ガス化炉の内部に溶融した石炭灰が付着し、ガス化炉を閉塞させる現象)やスラグの安定排出に課題があった。このプラントでも平成3年のパイロット運転当初は、スラッギングが多発し、ガス化炉の長時間安定運転ができなかった。しかし平成6年にガス化炉の抜本的な改造を実施し、それ以降順調な運転が可能となった。
 また、空気吹き方式は、酸素吹き方式と比較して設備内を流れる気体の量が約2倍となるため、より多くの石炭中の硫黄分を除去装置に送り込むことができ、燃焼排ガス中の硫黄分を低減できる。さらに、灰をスラグ化するので、廃棄物の再利用等が容易になっている。

図7 斉藤環境大臣によるIGCC実証プラントの視察風景(2008年9月)

図7 斉藤環境大臣によるIGCC実証プラントの視察風景(2008年9月)
出典:環境省環境大臣室ニュースレター
http://www.env.go.jp/guide/m-news/archive2009.html

表2 石炭ガス化における酸素吹き方式と空気吹き方式の比較
酸素吹き方式空気吹き方式
プロセス
  • 空気分離装置によって空気から酸素を分離してガス化炉に注入し、発熱量が2500kcal/m3N程度の中カロリーガスを製造する。
  • 空気をガス化炉に注入し、発熱量が800~1500kcal/m3N程度の低カロリーガスを製造する。
  • 空気分離装置がないため、所内電力の消費量が少ない。
  • 別途酸素を追加的に吹き込むことも可能。
実績
  • 欧米のIGCCプラントで実績あり
  • 実証プラント(福島県いわき市)
送電端効率
  • 40%前後
  • 酸素吹き方式よりも高く、40数~50%が実現可能

3.技術を取り巻く動向

1)石炭ガス化複合発電(IGCC)の普及計画

 地球温暖化対策が緊急課題となっている現在、クリーンコールテクノロジーはCO2排出削減のための重要な技術としても位置づけられており、中央環境審議会の気候変動に関する国際戦略専門委員会による中間報告(平成16年12月)でも、商業化に向けた技術開発への期待が示されている(図8)。例えば、石炭ガス化複合発電技術(IGCC)については、下図の通り、2009年度まで実証試験を行い、それ以降本格的に実用化することが見込まれている。

図8 IGCCの開発・普及計画

図8 IGCCの開発・普及計画
出典:中央環境審議会地球環境部会 気候変動に関する国際戦略専門委員会「気候変動問題に対する今後の国際的な対応について(中間報告)」(平成16年12月)
http://www.env.go.jp/council/06earth/y064-03/mat02.pdf

2)石炭利用技術高度化へのニーズ

 平成20年7月に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」の長期目標によれば、2050年までにCO2の排出量を現状から6~8割削減することがうたわれている。このなかでも、石炭利用の高度化が言及されている。こうした背景から、石炭火力発電所においてもCO2の一層の低減が求められており、CO2排出をほぼゼロ化したゼロエミッション型石炭火力発電所の構想も打ち出されている。
 クリーンコールテクノロジーは、これまでは石炭の燃焼段階までの技術を主に念頭に置いていたが、これからは燃焼後のCO2固定化貯留技術と組み合わせて、ゼロエミッション型石炭火力発電所を実現するためのキーテクノロジーとして、そのニーズが高まっている。

引用・参考資料など

(2009年6月現在)